旬感食材

毎月2回、旬の食材を取り上げて
ちょこっとしたうんちくをご紹介。

●第6回 「さんま苦いか、塩っぱいか?」

秋刀魚サンマは「不思議」な魚です。落語「目黒の秋刀魚」に、小津安二郎監督の映画「秋刀魚の味」、そして佐藤春夫作「さんまの歌」とこれだけの知名度を誇りながらも決して鯛や平目のような"スター"にはなれない魚なのですから。

例えば江戸時代にはサンマは季語にさえなれませんでした。あまりに大衆的過ぎたからでしょう。だからと言って一番売れている魚かと言えばそうではありません。
水産庁が平成22年に行なった調査では一人当たり最も購入数量が多いのはサケで、2位はイカ、3位はマグロ、サンマはと言うとその次の次の5位でした。とは言うものの確かに女性には人気があります。

秋刀魚別の調査で「好きな魚」を聞いたところ、男性の1位はマグロでしたが、女性はと言うとサンマが1位だったのです。サンマは芸能界でも食卓の上でも女性人気が高いのですね。ところで、これには訳があると管理栄養士の徳田泰子先生は説明します。「サンマは不飽和脂肪酸のEPA・DHAを多く含んでいるため血流の改善に役立ちます。また、ビタミンB12の補給源でもあるので女性に多い貧血を予防するからです」と。なるほど。サンマはやはり女性に優しいのです。しかし、その優しさを押し付けないところがいい。

何となく「ボクなんか」と言う風情を漂わせているところがいい。少し寂しげに見えるところもいい。「男ありて今日の夕餉にひとりさんまを食ひて、涙をながす」と、詩人の佐藤春夫はサンマを食べながら愛した人のことを思い出して泣いてしまう。

それ程、サンマは寂しいのです。それはサンマのその姿からなのか、焼き魚になった時の焦げ目のせいなのか、はたまた少し苦い腹わたのせいなのか、きっとトータルでサンマは何となく寂しいのです。そこが知名度のわりにサンマがスターになれない最大の理由だと思います。

ただボクはこうも思います。サンマを見て、食べて、寂しいと思えるボクは、今日も・・・生きてると。寂しいのも悲しいのも、苦いのも、生きているからこそなのです。 「秋刀魚喰い悲しみなきに似たりけり」(斎藤空華) サンマは「不思議」な魚です。何とはない小さな幸せを感じさせてくれる魚だからです。やはり秋は秋刀魚だとボクは思うのでありました。

(byエッセイシストKUNI61)

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