旬感食材

毎月2回、旬の食材を取り上げて
ちょこっとしたうんちくをご紹介。

●第11回 師走と大根と母の腕まくりと

大根巻子どもの頃、正月前のボクの仕事は「大根巻」でした。
薄く切った大根に、こちらは細く切られた柚子かあるいは生姜をクルクルクルリと巻いて、それをこちらも細くそしてもう少し長く切った昆布で結んでいくのです。薄い大根が着物ならば、昆布が帯と言う感じ。
作業としては単純でしたが、何せ当時の台所は寒かった。いや、本当に寒かった。暖房器具はお茶の間にこそあれ、台所は寒くて当然と言う意識がありましたよね。
そんな台所で正月を前にした幾晩かは、かじかんだ手に息を吐きかけながら、冷えた足をもう片方の足でこすりながら、小さなボクと4つ年上の姉とで大根をクルクルクルリと巻いていたのです。
幼い手で、それもかじかんだ手では昆布を上手く結べない。
強く引っ張れば昆布がプチッと切れたりして。寒いはイライラするはイライラするは寒いは。またそこまで苦労して作っても子どもの頃には大根巻は大して美味しいと思わなかったなぁ。

大根 しかし、今、大人になって、お酒も飲めるようになって、大根巻はなぜこんなに美味しいのでしょうか。

管理栄養士の徳田泰子先生はこう解説します。「大根には消化酵素ジアスターゼやアミラーゼが多く含まれ、でんぷんの消化を助け胸焼けや胃もたれを緩和してくれます。年末年始、食生活が乱れ胃腸が荒れやすい季節には欠かせない存在です」と。

なるほど!大根は大人に実に優しい食材なのだ。

紅白なます さらに大根を使ったお節料理のメニューには「紅白なます」がありますよね。千切りにした人参と大根を甘酢で合えたもの。 人参のその赤は“めでたさ”や“喜び”を表し、大根の白は“神聖さ”を表すと言う実におめでたい一品ですが、作り方は実に簡単。
それにしても母は何故こちらのメニューを選ばなかったのでしょうか?簡単なのに。あんな寒い台所で作業せずに済んだのに。ボクだって遊んでいたかったのに。
母はそれを良しとしなかったのでしょう。子どもにだって仕事を与えるべきだと思ったのでしょう。自分は家族の誰よりも働いていたのですから。師走のあの寒い台所でも母は腕まくりをしていたのですから 。
母と大根は多分共通項が多い。優しくて甘くて辛くて、そして冬の寒さにも負けはしないのだから。

(By エッセイスト・KUNI61)

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